箱根駅伝

「原君、部がダメになるぞ」ムキになった原晋監督が今も後悔する“最悪のスカウト”…青学大の信念『心根のいいヤツをとる』はいかに生まれたか?

ついに箱根駅伝が開幕する。ここ8大会で6度の優勝を誇り、圧倒的な選手層をもつ青山学院大学は連覇がかかる。「ぐんとハイレベルな戦いとなる。勝つにはブレーキがないこと。今の実力を100%出せば勝てる」と語った原晋監督。どのようなレース展開になるのか、楽しみだ。

昨年の箱根駅伝、選手と肩を組んで最終ランナーのゴールを待つ原晋監督

昨年の箱根駅伝で青学は大会新記録で優勝し、2位に10分51秒の差をつけた。なぜ青学は常に勝ち続けることのできる強いチームに成長したのか――。その秘密を解き明かす、原晋監督著『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』(アスコム刊)から、「心根の悪い人間が、チームをダメにする」の章を抜粋して紹介する

人間性を度外視したチーム編成では勝てない

 前にも触れましたが、育成だけでなく、スカウトの段階から人間性を重視すべきだと思い知らされたのは、監督就任3年目のことでした。1年目、2年目と思うような成績を残せなかった私は、契約最終年の3年目、人間性を度外視してタイムが良いだけの選手をスカウトすることに決めました。

 そのとき、獲得するつもりだった選手の指導者からこう警告されたのです。

「原君、あんな選手をとってはいけない。部がダメになるぞ」

 そこまで言われてかえって意地になってしまった私は、その選手の能力をしっかりと開花させ箱根駅伝に出てやろうと決めました。しかし、その決断は最悪の結果を生んでしまったのです。

問題部員の乱れた生活で…就任3年目の悲劇

 その選手が寮に入るや否や、チーム内で抜群のタイムを出す反面、乱れた生活でチーム内をかき回したのです。しかし、実力が抜きんでているだけに、ほかの部員は遠巻きに彼を傍観するだけです。そんなチームが結果を残せるわけがなく、前年よりも成績は落ち込み、陸上部は空中分解の危機に陥ったのです。そして、しばらくしてその部員は辞めてしまいました。

 ただ、この3年目があったからこそ、「表現力豊かで、勉強もしっかり取り組める心根のいい選手」という青学陸上競技部のスカウトの基準を確立できたのも事実です。高校生の頃は少々タイムが悪くても、自分でちゃんと考えてコツコツと練習に取り組み、自分の言葉を大切にする子のほうが、大学4年間で圧倒的に伸びるということを知るきっかけになりました。

 企業でも抜群の成績を残す一人の営業マンが、その実績を振りかざし「俺はトップの成績を残している。だからなにも言われる筋合いはない」と、組織にまったく融合しなかったらどうなるでしょうか。

 最終的に組織がぐちゃぐちゃになるのは目に見えています。そういう自分のことしか考えられない人のことを私は「心根の悪いヤツ」と表現します。それよりも、ほかの人と協調しながら行動できる「心根のいいヤツ」をとるほうが、短期的な伸びは小さくても、長い目で見ると組織全体の力を伸ばすことにつながるのです。

原監督の信念「チーム力を押し上げるのは“心根の良い人間”」

 また、仮にエースが抜けたとしても、「心根のいいヤツ」が揃う組織は、考え方次第で強化できるのです。成績がいいだけで心根が悪い営業マンがいなくても、残りの心根がいい営業マンが少しずつ成績を上げれば、その分をカバーできるからです。

 駅伝でも心根の悪いスーパーエースがいなくても、心根が良く真面目に練習に取り組む選手が少しずつタイムを縮めれば、合計タイムを短縮できます。例えばエースが抜けて10秒遅くなったとしても、10区あるなら、それぞれの区で1秒ずつタイムを縮めていけば、10秒のロスはカバーできます。それは決して不可能な数字ではありません。私は3年目以降、その考えを基本にしてチームを強化してきました。

 組織力やチーム力を押し上げていくのは、「コツコツと努力できる心根の良い人間」だと私は強く信じています。

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